宮城県岩沼市の中央を流れる丸沼堀端の緑道沿いに、洞口さん一家の住まいは建つ。ご主人の文人さんは東京で建築を学んだ後、「地元の街づくりに携わりたい」と生まれ育った岩沼市に帰郷を決意。当時、婚約者だった苗子さんも同行した。地元の商店街には文人さんのご両親も暮らし、大きな美容室を経営していた。ところが、2014年にお父さまが急逝。これが家づくりのきっかけだったという。
「お義母さんと一緒に暮らせば、経済的にも合理的だし、なにより、一人にする心配がなくなる。二世帯住宅かつ、お義母さんが一人で切盛りできる小さな美容室も併設した家にしたいと思いました」(苗子さん) 土地を探し始めたまさにその日に出会ったのが、築 60年の古家付き土地。駅近で広さも希望通り。もともと、古民家リノベーションに引かれていたというご夫妻には好都合の「お宝物件」だった。
リノベーションの設計は、建築設計事務所を主宰する苗子さんが担当。 「日本の昔の建築はとても柔軟に変えることができ、今の暮らしも受け入れてくれます」という苗子さん。畳の間が連なる典型的な日本家屋を、浴室だけを共有するプライベート性の高い二世帯住宅につくり替え、お母さまが営む美容室のスペースを増築した。
初めてこの家を内覧したとき、屋根裏に隠れた曲がりくねった梁に可能性を感じたというご夫妻。苗子さんは、新築同様に再生するのではなく、既存の面影を残しながら、次世代まで受け継げるようにという思いで設計を進めた。「わが家の主役は天井!」とご夫妻が言うように、60年前の職人が丁寧に組み上げた梁 や野地板を大胆に見せている。一方で断熱、耐震、防水は費用を惜しまずしっかり補強。健康的に暖かく住める家となった。
"レトロな建具が味わい深いダイニングの戸棚は既存の収納を活用。 下の引出しに合わせて1階の床の高さを設定" |
「地域が持っている資源を大切にした街づくりが理想。岩沼にはこのようなお宝がたくさんあります。若い世代がこれを壊さないで、利活用してほしい。僕たちの家がそのお手本になれば本望です」(文人さん)