以前は海抜約3mの津波浸水地域に建つ店舗兼住居で、電気店を営みながら暮らしていたFさんご夫妻。築 31年が経過した建物は傷みが激しく、断熱材が入っていなかったため、冬はとても寒かったという。子どもの独立を機に減築リフォームを検討していた矢先、御前崎沖が震源の駿河湾地震(2009年8月)に遭遇した。 「大きく揺れてとても怖かった」と声をそろえるご夫婦。その約2年後には、東日本大震災が発生。
「これがきっかけになり、高台の安全な場所に引っ越そうと決心しました。私たち静岡の人間は、子どものころから南海トラフ巨大地震について教えられています。だから、他の地域の人より地震に対して警戒心が強く、木造の家もかなり頑丈に建てていると思います」(ご主人) 現在の家が建つ敷地は海抜約 10m。古くからある住宅と商店が混在する地域で、店舗を設けるのに適した環境と判断。また、夫婦2人の生活にちょうどいい広さも購入の決め手となった。
「新しいお店は、商品を陳列せず、お客さまの話をよく聞き、修理の相談をしたり、カタログで商品を選んだりできるサロンのような店づくりを考えていました。テーブルを囲んで話をすれば、お客さまの好みや考えていることを深く理解できると思ったのです」(奥さま) 設計は、建築を学んでいるお子さまからの推薦で、荒井建築計画事務所に依頼した。
「お客さまが心理的に入りやすいように、道路側の建物の高さを低く抑え、敷地奥に行くにつれて高くなるようにしています」1階のリビングダイニングは、3枚引き戸を全開にすれば、店舗と一体になるように計画。「お客さまは家の雰囲気を見て、安心感と親密感を持ってくれるようです」(奥さま) 2階は夫婦ぞれぞれの個室を設けたが、 一部の壁を抜いて部屋をつなげ、お互いの気配が伝わるように工夫。「どの部屋にも窓が欲しい」という奥さまの希望も実現し、開放的で、家じゅうどこにいても明るく暖かい住まいに満足している。