1960年代に開発された横浜の高台にある閑静な住宅地。約70坪の敷地面積にゆったりと佇む黒い板張りの家を訪ねた。 この家に暮らすのは、30代の齋藤さんご夫妻と小学生のお子さま、お母さまの3世代4人家族。自分たちで手を掛けて住み続けられる中古の一戸建てを探していたところ、知人を介してこの家に出合い購入。築50年の木造住宅で、当時では珍しく断熱材が施され、開放的な空間づくりが可能な門型フレーム構法でつくられていた。
外壁は漆黒塗りの松板張り。格子窓や木製の玄関扉も既存を残している。 外構はこれから手を入れる予定 |
「以前のオーナーによって改修が重ねられていましたが、柱や梁はしっかりとした状態に保たれ、デザインや素材には深いこだわりが感じ取れました。知人から大切に使われてきたことを聞き、できるだけ既存を残してリフォームしたいと思いました」 そう話すご主人は、住宅リフォーム会社でリフォームアドバイザーを務めている。その経験を生かし、自宅の改修設計に自ら携わった。
既存の間取りは二世帯住宅で、キッチンが上下階に一つずつ、和室を含む個室が6室あった。齋藤さんは自分たちの家族構成やライフスタイルに合わせて、2階のダイニングキッチンと個室一つを撤去。1階のLDKに大きな吹抜をつくり、ダイナミックな空間を実現させた。
2階の子ども室。壁のペールイエローやパイン材の床は子どもと選んだ。室内窓から吹抜に通じる |
既存の建具や木製サッシ、カーテンボックスは、埃を払い磨き上げ、本来の美しい姿に復元。内装は古い木部になじむ珪藻土の白壁仕上げに。LDKにつながる小上がりの和室は畳を交換するだけの最小限の変更で従来の面影を継承。2階の床の根太が現しになったキッチンは、ダイニングに向き合う対面式のオープンキッチンに一新した。
「以前から家もモノも、長く大切に使い続ける暮らしへの憧れがありました。良質な木を使って丁寧につく られた日本の家をベースにしながら中庸をとる家づくりが、わが家のルール。今の『好き』より、飽きのこないことを大切にしました」(奥さま) 成熟した木造住宅の佇まいを生かしながら、新しい家族の暮らしに合わせて、より洗練した姿に。50年前に建てられた木造住宅が、若い家族の手により再び活気づいた。