台東区根岸の細い路地に、ひっそりと佇む格子扉の門構えの建物。ここが外国人も暮らすシェアハウスだとは、誰も想像しないだろう。 もともと割烹料亭兼住居で、現在のオーナーである吉田さんご兄弟のお祖母さまが1950年ころに創業したときに建てたもの。14年前に二代目女将のお母さまが亡くなると同時にのれんを下ろした。それからはしばらく兄弟二人で住んでいたが、次第にこの建物の有効活用を考えるようになった。
「はじめはマンションにしようと考えて、リノベーション会社に相談に行きました。しかし、試算してみると採算が合わず、シェアハウスに転用することを提案してもらったのです」(吉田さん) シェアハウスへのリノベーションに際し、吉田さんご兄弟は「料亭の趣をなるべく残したい」と希望。つくばいが置かれた石畳の玄関や階段もそのまま既存を生かし、柱や梁なども再活用した。
旧料亭の風情を残した静かで落ち着きのある雰囲気から、入居者は女性をターゲットとすることに。入居者募集や運営は管理会社に委託し、2011年11月に部屋数10室の小規模な女性専用シェアハウス「上野RYOTEI福井」としてオープンした。 上野、浅草、谷中などの人気スポットに自転車で行けるロケーションや、和の趣のあるインテリアが受けたのか、意外にも外国人からの申込みが多く、開業当初は驚いたという。
以来、7年間で93名が入居し、そのうち外国人は47名と半数にのぼる。現在は日本人の他にフランス人、スペイン人、タイ人が暮らしているという。 管理会社の担当者は、「初めての異国での生活で、女性専用ということが安心感に結びついたのでしょう。また、水道、ガス、インターネット代も家賃に含まれているので、外国人にとって面倒な手続きがいらないことも大きなメリットなのだと思います」と話す。 共用ラウンジでは、さまざまな国の言語が飛び交い、お互いに母国語を教えあったり、それぞれ自分の国の料理を披露したり。江戸情緒あふれる下町での暮らしや異文化交流を通して、住人たちは新しい価値観に触れる刺激的な毎日を楽しんでいる。