江戸期から続く町家を、家族がつながる開放的な住まいにリノベーション
通り土間よりギャラリーを見る。既存を再利用した畳縁は、極めて珍しい牛革製
2017.08.21

江戸期から続く町家を、家族がつながる開放的な住まいにリノベーション

江戸・明治時代からの町並みが残る歴史的な通りの一角。 祖父母が暮らした町家を孫世代が引き継いだ、 伝統の魅力と快適な現代生活空間が両立する家。

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「町家の魅力は、奥行きがあって、迷路のようなところ。この先には何があるのだろう? とワクワクするんです。子どもの頃、お正月やお盆に古い町家に住む祖父母の家に行くのが楽しみで、ここに来ると家じゅうを探検して遊んでいました。この幼児体験が、建築の世界に進むきっかけになったのかもしれません」

物件データ 所在地/奈良県御所市
面積/139.4m²
リノベーション竣工年月/2011年7月
設計/吉村理(吉村理建築設計事務所)
yoshimura-arch.main.jp/myblog/

そう話す吉村理さんは、関西を拠 点に活躍する建築家。約10年前に亡くなった祖父母の町家を引き継いで、家族5人で住んでいる。敷地は江戸・ 明治時代からの町家が多く残る歴史的な町並みの一角にあり、築年数は約180年、延床面積約500㎡の 広さ。かつては「花内屋」の屋号で反物問屋や、「ひょうたん 瓢簞屋」の屋号で薬屋などの商売をしていたという。

江戸から明治期に一般的だった「つし厨子2階」と呼ばれる町家の建築様式。2階の天井が低いことが特徴
町に開放しているギャラリー。現在は大阪の作家・大久保英治さんの作品を常設している

吉村さん一家がこの家に住み始めた当時は、雨漏りや水漏れ、冬は隙間風に悩まされ、設備機器も古く、生活していくには厳しい状態だった。そこで2011年に家族の生活空間だけリノベーションを敢行。
「江戸時代から残るしっかりした家で、何世代にもわたって大切に住み継がれた家なので、町家の根本的なつくりは基本的に残し、今の生活に合うようにリノベーションしました」(吉村さん)

ロフトに続く階段室に本棚をつくり、図書コーナーに。階段の奥には勉強机やピアノも置かれている

 リノベーションの中心はLDK。土間のキッチン、リビングダイニングをワンルームでつなげ、大きな開口部で既存の庭と一体になるように計画。 庭から半屋外の土間、そして内部空間へ滑らかに連続しながら、行き止まりのない回遊動線を実現した。子どもたちも、いつも楽しそうに走り回っている。

ロフトは約28㎡。子どもたちの遊び場になっている。天井、柱、梁は約180年前のもの。床は吉野スギに
「土間キッチンは掃除がラク」と奥さま。天板はモルタル仕上げ。背面の収納は全て襖で隠せる

 扉やドアなどの建具は全て昔のものを再活用。リビングダイニングの壁と天井は再生土を利用した。食卓テーブルも昔の陳列棚を使うなど、できるだけ既存のものや古材を大切に生かしている。
 通りに面したギャラリーは、地域のお祭りのときなどに、イベント会場や喫茶店として開放している。  「今まで以上に町の人に活用してもらえるよう、気軽に立ち寄れる場を積極的に提供して、町と家族の新しいつながりをつくっていきたいと考えています」(吉村さん)

大開口で庭とつながる開放的なリビングダイニング。壁、天井は再生土。正面はテレビが収まる壁面収納
text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Hideki Okura
取材協力

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