今年、米寿を迎えたYさんは、今住む敷地に、江戸時代中期の1716年に建築された武家屋敷で生まれ育った。 「茅葺き屋根の家だったことをよく覚えています。その屋敷が築250年を迎えた1966年、トタン屋根の2階建ての家に建て替えました」(Yさん) それから50年近くたった2013年、Yさんが転倒して怪我を負い、両膝とも人工関節に。住まい環境の見直しが必要になり、現在、岐阜県に住む次女夫婦が定年になったら山形に戻り同居する計画で、二世帯住宅に建て替えることを決めた。
設計は、家づくりのイベントで次女のご主人が気に入ったアトリエガク一級建築士事務所の山本学さんに依頼した。Yさんからのリクエストは、「160年前に建てられ、先祖代々受け継がれてきた蔵を残すことだけ。あとは娘夫婦に任せました」 当初、物置として使われていた蔵は、一度目の建替えの前にものを整理し、蔵座敷にしていた。
「蔵座敷は母屋と離れていたため、あまり使われておらず、もったいない状態でした。しかし、保存状態が良く、特に入口の扉の意匠が素晴らしかったので、積極的に新しい家に生かそうと思いました」(山本さん)
建替えプランは、母屋と蔵座敷を通路で連結させるのではなく、蔵座敷を住居で囲み、蔵座敷を中心に東西に大きく羽を広げるように各居室を配置。蔵座敷の東側は仏間とし、Yさんは毎日ここで仏壇に手を合わせているという。西側の間は、次女の茶室にあつらえた。
また、敷地の南側には植栽豊かな庭があり、LDKや寝室、茶室から眺められるよう建物の南に連続窓を設置。屋外と室内を緩やかにつなぐ広縁もつくり、明るく伸びやかな住まいを実現した。 「この辺りは住む人がいなくなっている空き家がたくさんあります。次女夫妻から孫の代に続き、この家を末長く継いでいってくれれば、本望です」(Yさん)