代々住み継がれた家に、若い家族が住む。建物の歴史と親戚の思いをつなぐリノベーション
ダイニングキッチンの天井は既存のまま低く抑えた。ベンガラ色の天井材が落ち着きをもたらしている
2017.03.21

代々住み継がれた家に、若い家族が住む。建物の歴史と親戚の思いをつなぐリノベーション

築53年の木造家屋の良さを残しながら、現代に住み良い空間に刷新。親戚や家族の思い出も継承した愛着の住まい

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本州西端の山口県下関市に建つこの家は、昨年3月に結婚した中谷さんご夫妻の新居だ。 53年前に奥様のそうそしゅくふ曾祖叔父(曾祖父の弟)が建てた木造家屋をリノベーションした。

物件データ 所在地/山口県下関市
面積/164.45m²
リノベーション竣工年月/2016年5月
設計/今村剛浩(IRA建築設計事務所)ira-design.main.jp
   田尻裕樹(田尻裕樹建築事務所)tj-r.com
施工/㈱再生工舎

「曾祖叔父が亡くなった後、奥さんが一人で住んでいたそうですが、高齢のため、介護施設に入所してから空家になっていたとか。母が、田舎暮らしを希望していた私たちに、この家を紹介してくれたんです」(奥様) 内見に行ってみると、建物の状態は思いの外良好だった。水周りを交換すれば、そのまま住めないこともなかったが、ご主人は「どうせ直すのなら、全面的に手を入れて、気持ちのいい空間で生活を始めよう」と提案。IRA建築設計事務所の今村剛浩さんと田尻裕樹建築事務所の田尻裕樹さんにフルリノベーションの設計を依頼した。

焼杉と瓦屋根の外観は、ほぼ既存を生かして補修。玄関ドアは杉の無垢材
2階は寝室と将来の子ども部屋、ウォークインクローゼット。吹抜に面し、梁を間近に鑑賞できる

中谷さんご夫妻が希望したのは、「広い土間」、「室内とつながるデッキ」と「広いリビングスペース」、「使えるものはなるべく使う」ということ。それ以外は2人の建築家にお任せしたという。

モルタル仕上げの広い土間。土が付いた野菜や自転車を置いたり、近所の人たちと会話をしたり、多目的に活用
梁に囲まれた階段の踊り場。梁には建築当時の大工が墨付けした跡が残り、歴史を感じさせる

改修プランは、田の字型に区切られていた既存の1階の和室4室を広々としたLDKに一新。リビング上部の小屋裏を抜いて吹抜にし、既存の梁をそのまま現して、この家の見せ場とした。また、ダイニングキッチンの天井は既存材のままに。新旧が融合した、美しい住まいが実現した。

リビングから丸見えにならないよう、シンク周りだけ壁を抜いたセミクローズドキッチン
既存の深い庇と濡れ縁を活用。濡れ縁はデッキ張りに。ご主人はここで景色を眺めている時が一番幸せだという

「ここまで変わると思っていなかったので感激しました。実際に暮らしてみても、とても快適です。それに、親戚の人たちから『この家を残してくれてありがとう』と言われるんです。みんなの思い出を継承することにも貢献したんだという実感が持ててうれしいですね」(ご夫妻) 今年の夏には第一子が誕生する。のびのびと子育てを楽しみながら、先祖とともに生きてきた家を未来へとつなげていく。

琉球畳のモダンな和室は客室として使用。上げ下げ障子戸を採用し、茶室の雰囲気を取り入れた
text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Hideki Ookura
取材協力

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