町家の良さを最大限に残し次の世代に引き継ぎたい
キッチンで2つのゾーンに仕切るLDK。黒猫の“ノア”と白黒の“ミック”と小川さんご夫妻。
2012.10.31

町家の良さを最大限に残し次の世代に引き継ぎたい

京町家の佇まいを生かし、人と猫が快適に暮らせる環境を実現。全面改装ながら“古さ”にこだわり抜いた、落ち着きの住空間。

TRIP
03

京都市上京区の西陣は500年以上の伝統を誇る西陣織の工房が軒を連ねるエリア。
小川昌敏さん(44歳)・美保子さん(38歳)ご夫妻の住まいは、昔ながらの町家が多く残るこの町の路地奥に佇んでいる。
大阪府吹田市に住み、京都の会社に通勤していた昌敏さんと、名古屋市で2匹の猫と暮らしていた美保子さんは、 写真の投稿サイトが開催したオフ会を通じて知り合った。
「最初は賃貸マンションを探していたのですが、猫を飼いたいと思っていたのになかなかペット可の物件がなかったんです。いつかは町家に住んでみたいと漠然と思っていましたが、たまたまネットで見つけた手頃な物件がこの町家でした。ところが実際に見に行ったら、何年も人が住んでおらず、床を踏み抜いてしまったぐらい荒れ果てていて(笑)」(昌敏さん)
それでも構造はしっかりしており、「通り庭」もきれいに残っていたことが決め手となり、購入。
そしてそれを機に美保子さんと結婚。ローバー都市建築事務所にリフォームを依頼して、「猫とともに暮らす町家」づくりに取り組むことになった。

物件データ 所在地:京都市上京区浄福寺 
床面積:95.42m²
設計:ローバー都市建築事務所
http://www.rover-archi.com/
壁に残るすすが、刻んで来た時間の長さを感じさせる通り庭。懐かしき原風景だ
壁に残るすすが、刻んで来た時間の長さを感じさせる通り庭。懐かしき原風景だ

小川さんご夫妻が目指したのは、町家らしさを最大限に生かすこと、そして町家の良さを次の世代にも引き継いでいけること。伝統的な町家は、「火袋」と呼ばれる吹き抜けを持つ土間の「通り庭」に台所を配してあるが、住み継がれていく過程で改装されてしまうことも多い。小川邸では通り庭本来の形が保たれ、「おくどさん」と呼ばれるかまどや井戸までもが残っており、貴重な財産であるこれらはそのまま生かされた。

畳敷きの寝室。左の押入れの一角に猫用トイレとタワーが収まっている。
畳敷きの寝室。左の押入れの一角に猫用トイレとタワーが収まっている。
2階から通り庭が見下ろせる。吹き抜けの天井高は7m。かまどにいぶされてきた梁が迫力だ。
2階から通り庭が見下ろせる。吹き抜けの天井高は7m。かまどにいぶされてきた梁が迫力だ。
裏庭を眺めるように配置したキッチン。直火の出ないIHクッキングヒーターを採用。
裏庭を眺めるように配置したキッチン。直火の出ないIHクッキングヒーターを採用。

一方で、もともとなかったバスルームを裏庭の一角につくり、天井を撤去して小屋裏にロフトを設置するなど、極力もとの町家の形を変えない範囲でリフォームを行った。
さらに、猫にとっても快適な空間にしながら、それが前面に出ないように施した工夫も、こだわったポイント。
猫のトイレとキャットタワーは押入れの中に収まり、キャットステップは飾り棚を兼ねている。
これらは昌敏さんが発案したものだ。
「次にこの町家に住む人が猫を飼っていなくても、そのまま快適に暮らせるようにと考えました」(美保子さん)
新たな命を吹き込まれた町家は、本来の建物が持つ心地良い陰影とともに、長く受け継がれていくだろう。

text_ Takako Yoshida photograph_ Akira Nakamura
取材協力

HOMETRIP Styles of living

典型的な京町家の裏庭。縁側とリビングの間には引込式の戸を設け、断熱に配慮している 細い路地の突き当たりに佇む小川邸。正確な建築年は不詳だが、おそらく築80年以上という 2階の天井はぶち抜いてロフトに。大きな梁はキャットウォークになっている。
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