都心のベッドタウンとして発展してきた埼玉県越谷市に、2014年に完成した賃貸集合住宅「蒲生シュミグラシ WAnest(ワ・ネスト)」。緑豊かな敷地にゆったりと連なる赤い屋根の建物群が、住宅地でひときわ異彩を放っている。
オーナーの大和さんは、お父さまからこの広大な敷地を引き継ぎ、長年塾考の末、賃貸住宅を建てることを構想。設計はスタジオ・アーキファーム一級建築士事務所の峯田建さんに依頼。
最寄り駅の東武スカイツリーライン「蒲生」駅は都心まで約1時間。各駅停車しか停まらない。
「都会でもなく、リゾート地や田舎でもない立地に対して、物件にどのような特長を与えれば良いのかが問題でした」(峯田さん)
峯田さんが提案したのは、寝に帰るだけの住まいではなく、趣味を楽しむ生活がしたい人、在宅勤務やフリーランサーをターゲットにした賃貸住宅。全住戸に居住空間だけでなく、趣味を楽しんだり、仕事場やアトリエとしても使える趣味室を設け、共用のスタジオや工房、カフェなども併設。入居者と地域住民がつながりながら暮らせるようにした。
「10万円ほどの家賃で住居に加えてアトリエや仕事場も提供できるのは、蒲生という場所だからできることだと思います」という大和さんの言葉を裏付けるように、ごく普通の郊外住宅地にもかかわらず、現在20~30代の若者を中心に申込みが相次いでいるという。
東京と神奈川から引っ越してきたデザイナーの赤尾亮さんとイラストレーターの田中亜祐美さんは、いずれは独立して2人で事務所を持ちたいと思っていた。「そんな私たちにうってつけの物件で、内覧に来てすぐ入居を決めました」
(赤尾さん)
田中さんはここでフリーのイラストレーターとしてスタートし、赤尾さんは会社に勤めながら、夜や週末は、2人で組んだデザインユニット「moimoi」の仕事に励んでいる。「住人同士のコミュニケーションが密で、名刺制作などの仕事を依頼してくれることもあり、夢の実現に近づいています」(赤尾さん)
「入居者は思いのほか若い人が多く、アーティスト系の方が多く集まりました。『WAnest 』のnest は『巣』を意味します。ここから若い才能が大きく育って、世の中に羽ばたいていって欲しいですね」(大和さん)