この家の主である白石達史さんは、さかのぼること8年前、アメリカのアリゾナ州でトレイルワーカーとして働いていた過去を振り返る。 「グランドキャニオンを始めとする国立公園のトレイルのリペアや新設、外来植物の調査、野生動物の保護柵設置などが主な仕事でした。テントを張ってプロジェクトメンバーと自炊しながら作業したり、ナショナルパークサービスから提供される道具を使って、レンジャーの皆さんと手を動かしたり…。このときの生活が私にはとても豊かに感じられ、日本でもこんな生活をしたいと思っていました」
帰国後は都内で2年間生活。多忙でコンビニ通いをするまさに使捨ての消費生活で、「自分が求めるものは東京にはない」と実感したという。そして2010年、飛騨古川への移住を果たす。奥さまの実果さんと結婚し、新居として購入したのは築70年の古民家。「自分たちで少しずつ修復しながら暮らしたいと思っていたので、骨組みがしっかりしていれば、ボロボロでも構いませんでした」と達史さん。始めの1年間は家じゅうの天井や壁の煤を落とし、床を磨き、ひたすら掃除を繰り返した。
「私たちを悩ませたのが冬の寒さ。12月~3月まで氷点下の気温で辛かったですね。とにかくひと部屋を改修して、暖かく過ごせる場所を確保しようと、暮らしの中心であるダイニングキッチンからつくり始めることにしました」(達史さん)。 基本図面は友人の設計士に描いてもらい、これを基にセルフリノベーションをスタート。材料の調達、解体作業、断熱材の充填、床張り、壁の漆喰塗りなども、大工職人や友人と協力して行った。達史さんと実果さんは、その様子をフェイスブックで発信。さらに、「◯日に◯○の作業をします」と告知をす ると、友人やDIYに興味を持つ多くの人たちが手伝いに来てくれたのだそう。
「この辺りはお裾分けの文化が残っていて、野菜などをもらうことも多いんです。工事中も、道具がなくて困っているとき、近所の方が快く貸してくれました。4月のお祭りには、獅子笛を教えてもらって吹いたり、地元の行事に も積極的に参加しています」(達史さん) 家の改修はまだ途中段階。あと何年かかるか分からないが、古民家のもっている良さを生かし、住み継いでいける家に仕上げていく。