町家の伝統的な佇まいを残しながら、 町に開く自宅兼カフェにリノベーション
浅野川周辺を一望できる2階のカフェ。壁は聚楽仕上げ、天井は柿渋紅殻を塗り、当時の趣を残しながらリノベーション
2015.03.20

町家の伝統的な佇まいを残しながら、 町に開く自宅兼カフェにリノベーション

観音院の参道に寄り添うように建つ、大正9年築の町家 外観は当時の趣をそのままに、内装は現代の生活にマッチするスタイルに

TRIP
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金沢市郊外の社宅に住んでいたKさんは、2009年に早期退職して、転職。次の住まいを見つけるためにマンションなどを見てまわるうちに、「ありきたりのものは面白くない。どうせ住むなら、自分の考え方を反映した家に住みたい」と思うようになった。そんなとき、金沢市のホームページで町家が紹介されているのを発見。東山エリアに建つ現在の住居に興味を持った。

物件データ 所在地/石川県金沢市
面積/113.70m²
築年/2011年3月
設計/林建築設計工房+奥村設計室
www.harchitect.com
屋根は垂木などを補修し瓦葺きで仕上げ、外壁はスギの下見張りで昔の風情を再現
屋根は垂木などを補修し瓦葺きで仕上げ、外壁はスギの下見張りで昔の風情を再現
2階の玄関手前に、鉢を置いてつくばい風に。水がぽたぽたと落ちる音に風情を感じる
2階の玄関手前に、鉢を置いてつくばい風に。水がぽたぽたと落ちる音に風情を感じる

「大学時代にこの付近に住んでいて、好感を持っている地域でした。また、大正9年に建てられたというこの家は、傾き、荒れ果てたひどい状態だったのですが、大正時代の好景気を感じさせるつやのある趣を感じ、何とかすれば、面白くなりそうと心が弾みました」と、Kさんは熟考の末、購入してリノベーションすることに。設計は、「町家改修に手慣れている」と、不動産事務所が推薦してくれた、林建築設計工房の林正人さんと奥村設計室の奥村久美子さんに依頼。

2階の玄関と前の間。玄関床は玉砂利洗い出し仕上げ。靴脱ぎ石は地元の水田丸石
2階の玄関と前の間。玄関床は玉砂利洗い出し仕上げ。靴脱ぎ石は地元の水田丸石
4畳半の和室は炉を切って貸し茶室としても活用。壁は聚楽仕上げで落ち着いた雰囲気
4畳半の和室は炉を切って貸し茶室としても活用。壁は聚楽仕上げで落ち着いた雰囲気

Kさんが伝えた希望は大きく3つ。「地震対策をしっかり施した安全な住まい」「周囲に調和した外観」「日常生活を送るところは明るく、暮らしやすく」。これに対して、「当時は南側に建物が傾いていて、1階の床をのぞくと束が束石から浮いている状態でした。柱と梁だけを残して建物を持ち上げ、水平、垂直に戻すのがとても大変でした。そして、新しいコンクリートの擁壁で古い擁壁を囲み、地盤が動かないようにしました」と林さん。断熱は外張り断熱に。外観と2階は町家の雰囲気を出来るだけ残し、住居部分の1階と地下は、壁に白い壁紙を使うなど、明るく、使い勝手のいい造りとし、安全性を考えてオール電化にした。

1階のリビングダイニング。床は能登ヒバ、壁と天井は白い壁紙を貼り、明るく仕上げた
1階のリビングダイニング。床は能登ヒバ、壁と天井は白い壁紙を貼り、明るく仕上げた

「夏の暑さ、冬の寒さも緩和され、静かで落ち着いて暮らせ快適です」とKさん。
 現在、Kさんは会社が休みの週末だけカフェを開いている。「カフェは林さんたちと設計の打ち合わせをしているなかで出たアイデア。いろいろな人と知り合えるのが楽しいですね」とKさん。近くにある宇多須神社の「氏子の会」に入り、行事の手伝いなどをしながら、地域の人たちとのつながりを大切に古都・金沢での暮らしを満喫している。

カフェの店名は「いちえ」。コーヒーにバナナ、キウイフルーツなど果物をひと口添えて"
カフェの店名は「いちえ」。コーヒーにバナナ、キウイフルーツなど果物をひと口添えて
リビングの一角にパソコンコーナーを配置。窓からは、東山の四季折々の景色が楽しめる
リビングの一角にパソコンコーナーを配置。窓からは、東山の四季折々の景色が楽しめる

text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Akira Nakamura

取材協力

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