涼しく暮らす工夫と知恵がいっぱい 沖縄の伝統を大切に建てた家
敷地や気候の特性を生かした建築的工夫を施して、家に取り込む光と風を操作。 変わりゆく自然環境と調和するサスティナブルな住まい方
27
関東育ちのご主人と大阪育ちの奥さまは、10年前に沖縄で出会い結婚。数年後、マイホームを建てるために首里城の北西に位置し、那覇で最も多く緑が残る公園に隣接した住宅地に、約65坪の土地を購入した。設計を依頼したのは、ご主人の中学時代の同級生で、現在大阪を拠点に活動している建築家の芦澤竜一さんだ。 「沖縄の伝統的な住居の知恵を生かし、沖縄の光・風・水・植物などの自然環境と豊かな関係を持たせることで、人工的なエネルギーに頼らなくても快適な家をつくりたいと考えました」(芦澤さん)
物件データ | 所在地/沖縄県那覇市
面積/109.13m²
築年/2011年9月
設計/芦澤竜一建築設計事務所 http://www.r-a-architects.com/ |
建物から南北に大きく突き出した軒下空間は、沖縄で「雨端」と呼ばれ、夏場の室内への強い直射日光を防いでいる。雨端を覆うゴーヤーなどつる植物のグリーンカーテンは、日差しを和らげるとともに、隣接する住宅からの視線をシャットアウト。南北とも窓を全開放できる、風通しのよい住まいが完成した。 「また、敷地は緩やかな斜面にあり、斜面下側から上側へと上昇気流が吹くんです。そこで、地面に池をつくり、床を約1メートル持ち上げて高床式としました。すると、池の水が蒸発するときの気化熱による冷気が上昇気流にのって、床下にもぐり込みます。1階と2階の床には通気口が設けてあるので、涼しい風が室内に流れ込むようになっています」(芦澤さん)
芦澤さんは機能だけでなく、琉球民家の習わしも家づくりに取り入れることを提案。代表的なのが、家の前に建つ「ヒンプン」。門と家屋の間に設けられる屏風状の塀で、外部からの視線を遮る目隠しとして、また、悪霊が入るのを防ぐ魔除けとしての伝統がある。
「娘のお友達が遊びにくると、『おばあちゃんの家に来たみたい』と喜んでくれる子もいます。ヒンプンがあるから、そう見えるのでしょう」(ご主人) 「沖縄は人のつながりをとても大切にします。だから、家に呼ばれたり、招いたりがしょっちゅう。この家のおかげで友人もたくさんできました」(奥さま) ご夫妻とお子さんにとって、この家は単なる家族だけの空間ではなく、人と自然との触れ合いを楽しむかけがえのない場となっている。