涼しく暮らす工夫と知恵がいっぱい 沖縄の伝統を大切に建てた家
雨端に増設可能なダイニングテーブルの下には通気口。夏は板を開け、涼しい風を部屋に入れる
2014.07.18

涼しく暮らす工夫と知恵がいっぱい 沖縄の伝統を大切に建てた家

敷地や気候の特性を生かした建築的工夫を施して、家に取り込む光と風を操作。 変わりゆく自然環境と調和するサスティナブルな住まい方

TRIP
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関東育ちのご主人と大阪育ちの奥さまは、10年前に沖縄で出会い結婚。数年後、マイホームを建てるために首里城の北西に位置し、那覇で最も多く緑が残る公園に隣接した住宅地に、約65坪の土地を購入した。設計を依頼したのは、ご主人の中学時代の同級生で、現在大阪を拠点に活動している建築家の芦澤竜一さんだ。
「沖縄の伝統的な住居の知恵を生かし、沖縄の光・風・水・植物などの自然環境と豊かな関係を持たせることで、人工的なエネルギーに頼らなくても快適な家をつくりたいと考えました」(芦澤さん)

物件データ 所在地/沖縄県那覇市
面積/109.13m²
築年/2011年9月
設計/芦澤竜一建築設計事務所
http://www.r-a-architects.com/
家は床を浮かせた高床式に。その下に池をつくり、床下からの冷気を室内に取り入れている
夏は畳の一部を穴の開いた板に変え、より一層涼風を取り込む工夫を施している

建物から南北に大きく突き出した軒下空間は、沖縄で「雨端」と呼ばれ、夏場の室内への強い直射日光を防いでいる。雨端を覆うゴーヤーなどつる植物のグリーンカーテンは、日差しを和らげるとともに、隣接する住宅からの視線をシャットアウト。南北とも窓を全開放できる、風通しのよい住まいが完成した。
 「また、敷地は緩やかな斜面にあり、斜面下側から上側へと上昇気流が吹くんです。そこで、地面に池をつくり、床を約1メートル持ち上げて高床式としました。すると、池の水が蒸発するときの気化熱による冷気が上昇気流にのって、床下にもぐり込みます。1階と2階の床には通気口が設けてあるので、涼しい風が室内に流れ込むようになっています」(芦澤さん)


建物の前にある石を積み上げたついたては「ヒンプン」と呼ばれる、琉球民家の魔除けの塀
客間へは、LDKの南側の雨端から直接アクセスできるように配置。客間の戸も全開できる

芦澤さんは機能だけでなく、琉球民家の習わしも家づくりに取り入れることを提案。代表的なのが、家の前に建つ「ヒンプン」。門と家屋の間に設けられる屏風状の塀で、外部からの視線を遮る目隠しとして、また、悪霊が入るのを防ぐ魔除けとしての伝統がある。


2階に設けた家族のライブラリー。真ん中の板を倒すとデスクになり、お子さんの勉強机に
2階に設けた家族のライブラリー。真ん中の板を倒すとデスクになり、お子さんの勉強机に

「娘のお友達が遊びにくると、『おばあちゃんの家に来たみたい』と喜んでくれる子もいます。ヒンプンがあるから、そう見えるのでしょう」(ご主人)
 「沖縄は人のつながりをとても大切にします。だから、家に呼ばれたり、招いたりがしょっちゅう。この家のおかげで友人もたくさんできました」(奥さま) ご夫妻とお子さんにとって、この家は単なる家族だけの空間ではなく、人と自然との触れ合いを楽しむかけがえのない場となっている。


2階の水回り。屋根で受けた雨水は空庭に設置した水瓶と地面に設けた池に流れ込む
2階の水回り。屋根で受けた雨水は空庭に設置した水瓶と地面に設けた池に流れ込む
南北に開放されたLDK。雨端で夏の直射日光を遮り、冬はあたたかな日差しを室内に取り込む
南北に開放されたLDK。雨端で夏の直射日光を遮り、冬はあたたかな日差しを室内に取り込む

text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Akira Nakamura

取材協力

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