名古屋市の郊外、日進市の住宅地に、6軒の住宅が塀で区切られずに建っている一画がある。ある小春日の昼下がりに訪ねてみると、家と家の間に、カラフルな石の道があり、そこに住人が集まって、楽しそうに話をしたり、子どもたちが追いかけっこをしたりしている。
建築家の間宮晨一千さんは、3年前、不動産会社から、250坪の敷地に6軒の家を建てるプロジェクトのプロデュースを依頼された。以前から住宅の隣地境界線に疑問を持っていた間宮さんは、「民法上、家を建てるには、境界線から50㎝以上離さなければなりません。この50㎝は塀を建てるくらいにしか使われないもったいないスペースです。そこで塀を立てずに50㎝ のうち、40㎝を住人のみんなが共有するスペースにしたら、豊かな環境の家がつくれるのでは、と提案しました」
1軒が40㎝ずつスペースを提供すれば、隣と併せて幅80㎝の通路ができる。「この80㎝を『みんなのみち』として生かし、人のにぎわい、つまり人々のコミュニケーションの場にしようと企画したのです。塀がないから、どの家も風の通りがよくなり、光もよく入る、という利点も生まれます」 住宅は建売りではなく、1軒1軒設計して建てられた(5軒を間宮さんが担当)。腰掛けて井戸端会議ができる出窓を設けたり、住人が顔を合わせることができる玄関ポーチを作ったり、それぞれの家で『みんなのみち』に対して開く工夫が施されている。
隣の市からここの住人になったOさんは、奥さまの知り合いの紹介で間宮さんに設計を頼むことに。「みんなのみち」計画のことを聞いたとき、Oさんは、塀がないので、景観がすっきりしていいな、と思ったという。実際に2年住んでみて、「まず、道を歩くのが楽しいですね。約束もしないのに、自然に会話が盛り上がって、思わぬ情報が入ることも。何といっても、近所にどんな方が住んでいるか分かっているので安心なのがうれしいですね」(奥さま)。 仕切りが少なく、広々とした住まいもお気に入り。近所の住人との絆も大切に、豊かな毎日を過ごしている。