部屋の中央に据えられたマントルピース、ゆらめくシャンデリア、クラシカルな壁紙…。この部屋が賃貸で、しかも入居者がオーダーメイドでつくり上げたと聞いたら、多くの人はにわかには信じられないだろう。この部屋をオーダーしたのは30代のワーキングウーマン、Sさんだ。「このマンションに入居した友人の部屋を訪ねて、壁紙のかわいらしさに感激しました。豊富な色や柄の中から好きな壁紙を選べる『カスタムメイド賃貸』だと聞き、私も素敵な壁紙を選んでみたい、とすぐに空室待ちにエントリーしたんです」
4カ月後、空室が出たと連絡をもらったSさんは、その内容に仰天する。壁紙どころか、スケルトン状態の部屋を一からオーダーメイドしてみませんか、というものだったからだ。
間取りから水回りの設備、内装材に至るまでを住み手がオーダーするという、革新的な賃貸のスタイルを実現したのは、東京都豊島区に建つ築25年のマンション「ロイヤルアネックス」。オーナーの青木純さんは言う。
「壁紙を選べるサービスを始めて、入居者さんが住みたい空間に住む喜びを感じてくれていると実感しました。ならば部屋をフルリフォームするタイミングが訪れたときに、住み手が本当に求める空間を、住み手と一緒につくろう、と考えたのです。そうやって作った空間は、入居者が変わっても大切に住み継がれていくだろうという確信がありました。そこでデザイン会社『夏水組』とタッグを組み、このプロジェクトを立ち上げたのです」
身の丈に合った家賃で、しかもデザイン料や材料費、工事費は今後の家賃回収でまかなうため、入居者の初期負担はゼロ。夢のような幸運に恵まれたSさんだが、当然ながら家づくりの経験は皆無。初めは何をどう選んだらよいのか分からず、不安ばかりだった。
「休日のたびにインテリアショップをはしごしたり、打合せに友人に同席してもらい、アドバイスを受けたりするうちに、漠然としたイメージが固まり、どんどん楽しくなっていきました。引き渡しの日、完成した部屋に足を踏み入れたときは、感激のあまり悲鳴が出ましたね(笑)」
これまでの固定観念を超えた新しい賃貸の形は、これからのスタンダードモデルになっていくはずだ。